事業承継税制の拡充と経過措置型医療法人の承継税制
平成25年度税制改正
- 非上場株式の納税猶予制度に関しては、平成20年の創設以来、全国で549件利用されています。(平成24年現在)
- 相続税改正に合わせて、非上場株式の納税猶予制度の適用要件が緩和されるものの、医療継続に係る出資金の承継税制は創設されませんでした。
- 現在のところ、経過措置型医療法人の出資金に関して税制上優遇されるものがありません。
現状における経過措置型医療法人の問題点と課題
- 第5次医療法改正後の医療法人制度では、医療法人の非営利性を徹底し、株式会社の医療経営参入論を封じ込めるため、「出資持分」否定した制度としましたが、医療法人全体のおおむね88%が「持分あり(社団)」の経過措置型医療法人となっています。
- 経過措置型医療法人はあくまで「経過措置」であるがゆえに、非上場株式の納税猶予制度を導入することができないとする考え方が通説となっています。
- しかしながら、経過措置型医療法人の理事長をはじめとする経営者は高齢化しており、事業承継にあたり問題となる事項が多く、承継が危ぶまれることが少なくありません。
- 医療法人の性格上、「持分あり」から「持分なし」への移行が望ましいと考えられますが、移行する際には原則として医療法人に対し贈与税が課税されます。
経過措置型医療法人の対応
【選択肢A】 出資持分を放棄する
- (1) 特定医療法人へ移行する(国税庁長官の承認が必要です)
- (2) 社会医療法人へ移行する(都道府県知事の認定が必要です)
- (3) 単純に定款変更して持分を放棄する(原則として贈与税が課税されます)
- (4) 基金制度を採用した医療法人へ移行する(みなし配当と贈与税が課税されます)
- (5) 出資持分のない医療法人と合併する(贈与税が課税されます)
【選択肢B】 持分を継続する
- (1) 経過措置型医療法人のまま存続する
※「相続税課税」と「持分払戻し」、「財産分け(遺留分、特別受益)」などの諸問題に対する対処が必要となります。
- (2) 出資額限度法人(経過措置型医療法人)へ定款変更
※社員退社に伴う出資の払戻しに対しては効果があるものの、課税上の問題が数多くある。(相続税評価額は持分定めのある医療法人と同じ)
持分ありの社団医療法人から持分なしの社団医療法人への移行
- 第5次医療法改正後の医療法人制度で、持分の定めのある社団医療法人が、持分の定めのない社団医療法人に移行(持分放棄)する場合には、「定款変更」手続を行うことにより移行できます。
- この場合、解散時の残余財産は国・地方公共団体に帰属することとなります。
「持分放棄」による医療法人の相続・事業承継への対応
持分放棄をした場合において贈与税課税がない3つのパターン
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理事要件 |
社員要件 |
残余財産 |
役員報酬要件 |
救急要件 |
相続税法施行令
33条3項の要件を
満たした医療法人 |
親族1/3以下
理事:6人以上
監事:2人以上 |
- |
国等に帰属 |
- |
- |
特定医療法人 |
親族1/3以下
理事:6人以上
監事:2人以上 |
- |
国等に帰属 |
年間報酬
3,600万円以下 |
救急告示病院 |
社会医療法人 |
親族1/3以下
理事:6人以上
監事:2人以上 |
親族1/3以下 |
国等に帰属 |
△ |
特定医療法人
より厳しい |
相続税法第66条第4項の要件
持分放棄に伴う贈与税課税(相続税法第66条第4項)
移行前の医療法人の出資者が、その出資持分を放棄したことによって、親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少した場合には、医療法人を個人とみなし、医療法人に対し贈与税が課税されます。
「相続税又は贈与税の負担が不当に減少」に該当しないことの判定(相続税法施行令33条3項)
- (1)医療法人の運営が適正であること
- (2)同族親族等関係者が役員等の総数の3分の1以下であること
- (3)医療法人関係者に対する特別利益供与が禁止されていること
- (4)残余財産の帰属先が国、地方公共団体、公益法人等に限定されていること
- (5)法令違反等の事実がないこと
その運営が適正であるかどうかの判定(法令解釈通達15)
- (1)理事の定数は6人以上、監事の定数は2人以上であること。
- (2)理事及び監事の選任は、例えば、社員総会における社員の選挙により選出されるなどその地位にあることが適当と認められる者が公正に選任されること。
- (3)理事会の議事の決定は、次の④に該当する場合を除き、原則として、理事会において理事総数(理事現在数)の過半数の議決を必要とすること
- (4)社員総会の議事の決定は、法令に別段の定めがある場合を除き、社員総数の過半数が出席し、その出席社員の過半数の議決を必要とすること
- (5)次に掲げる事項(次の⑥により評議員会など委任されている事項を除く。)の決定は、社員総会の議決を必要とすること。この場合において、次のホ及びヘ以外の事項については、あらかじめ理事会における理事総数(理事現在数)の3分の2以上の議決を必要とすること。
- ・収支予算(事業計画を含む)
- ・出資決算(事業報告を含む)
- ・基本財産の処分
- ・借入金(その会計年度内の収入をもって償還する短期借入金を除く。)
その他新たな義務の負担及び権利の放棄
- ・定款の変更
- ・解散及び合併
- ・当該法人の主たる目的とする事業以外の事業に関する重要な事項
- (6)社員総会のほかに事業の管理運営に関する事項を審議するため評議員会などの制度が設けられ、上記ホ及びヘ以外の事項の決定がこれらの機関に委任されている場合におけるこれらの機関の構成員の定数及び選任並びに議事の決定については次によること。
- ・構成員の定数は、理事の定数の2倍を超えていること
- ・構成員の選任については、一定の基準に準じて定められていること
- ・議事の決定については、原則として、構成員総数の過半数の議決を必要とすること
特定医療法人について
特定医療法人の承認
特定医療法人の承認は、国税庁長官が行います。
特定医療法人の特徴
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特定医療法人とは、財団又は持分の定めのない社団医療法人であって、その事業が医療の普及及び向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与し、かつ、公的に運営されていることにつき国税庁長官の承認を受けたものをいいます。 |
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特定医療法人として承認された場合には、法人税において軽減税率が適用されます。
(年800万円以下の部分は15%、年800万円超の部分は19%と普通法人に比べて優遇されています。) |
特定医療法人の承認基準
- (1)財団又は持分の定めのない社団の医療法人であること
- (2)理事、監事、評議員その他役員等のそれぞれに占める親族等の割合がいずれも3分の1以下であること (役員等の数は、理事6名以上、監事2名以上が必要です。また、評議員数は理事のの数の2倍以上であることとされています。)
- (3)"設立者、役員等、社員又はこれらの親族等に対し、特別の利益を与えないこと
(自宅周辺の領収書、交際費、MS法人との取引などを帳簿書類から確認されます。)"
- (4)寄付行為、定款に、解散に際して残余財産が国、地方公共団体又は他の医療法人(財団たる医療法人又は社団たる医療法人で持分の定めがないものに限る)に帰属する旨の定めがあること
- (5) 法令に違反する事実、その帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装して記録又は記載している事実その他公益に反する事実がないこと
- (6)公益の増進に著しく寄与すること
- ・社会保険診療に係る収入金額 (公的な健康診査を含む)の合計額が全収入の8割を超えること
- ・自費患者に対し請求する金額は、社会保険診療報酬と同一の基準により計算されること
- ・医療診療収入は、医師、看護師等の給与、医療提供に要する費用等患者のために直接必要な経費の額に100分の150を乗じた額の範囲内であること
- (7)役職員一人につき年間の給与総額が、3,600万円を超えないこと
- (8)医療施設の規模が告示で定める基準に適合すること
- ・40床以上(専ら皮膚泌尿器、眼科、整形外科、耳鼻咽喉科又は歯科の診療を行う病院にあっては、30床以上)
- ・救急告示病院
- ・救急診療所である旨を告示された診療所であっては15床以上を有すること
- (9)各医療機関ごとに、特別の療養環境に係る病床数が当該医療施設の有する病床数の100分の30以下であること
社会医療法人について
持会医療法人の認定
社会医療法人の認定は、都道府県知事が行います。
社会医療法人の特徴
- ・救急医療、へき地医療など公益性の高い医療を担わなければいけません。
- ・「財団」又は「持分定めのない社団」となります。
- ・社会医療法人は、公益法人として取り扱われ、税制上の優遇措置の適用を受けられます。
(医療本業については原則非課税となり、収益事業については、年800万円以下の部分は15%、年800万円超の部分は19%と普通法人と比べて優遇されています。)
- ・社会医療法人債を発行することができます。
社会医療法人となるための4つの認定要件
同一親族等関係者の制限 (同族経営はできない)
- ・医療法人の役員について、各役員と特殊の関係がある役員が役員総数の3分の1を超えていないこと。
- ・社団医療法人の社員について、各社員と特殊の関係がある社員が社員総数の3分の1を超えていないこと。
- ・財団医療法人の評議員について、各評議員と特殊の関係がある評議員が評議員総数の3分の1を超えていないこと。
救急医療等確保事業の実施
- ・その医療法人が、救急医療等確保事業(その医療法人が開設する病院又は診療所の所在地の都道府県が作成する医療計画に記載されたものに限る。)に係る業務をその病院又は診療所の所在地の都道府県において行う必要があります。
- ・救急医療等確保事業とは、「救急医療」、「災害時における医療」、「へき地の医療」、「周産期医療」、「小児医療(小児救急医療を含む)」、及びこれらの医療のほか、都道府県知事がその都道府県における疾病の発生の状況等に照らして特に必要と認める医療の確保に必要な事業をいいます。
- ・救急医療等確保事業の業務について、次に掲げる事項に関し厚生労働大臣が定める基準に適合していること。
- (イ)その業務を行う病院又は診療所の構造設備 (物的要件)
- (ロ)その業務を行うための体制 (人的要件)
- (ハ)その業務の実績 (実績要件)
※救急医療であれば、「夜間等救急自動車等搬送件数750件以上」である場合など
公的な運営に関する要件に適合
その医療法人の運営が、公的な運営に関する厚生労働省令で定める要件に適合しなければいけません。
- (イ)理事及び監事の定数
- (ロ)理事及び監事、評議員の選任方法
- (ハ)同一団体関係者の制限
- (二)理事及び監事、評議員に対する報酬等の支給基準を定める
- (ホ)社会医療法人関係者に対する特別利益供与禁止
- (へ)営利事業を営む者等に対する特別利益供与禁止
- (ト)遊休財産の保有制限
- (チ)株式等の保有制限
- (リ)その他欠格事由
- (イ)診療収入の制限
- (ロ)自費患者に対する請求方法の規制
- (ハ)医業利益の制限
残余財産の帰属先の制限
その医療法人の定款又は寄附行為において、解散時の残余財産を国、地方公共団体又は他の社会医療法人に帰属させる旨を定めている必要があります。